反対の中からイノベーションは生まれる

昨日発売のAERAに、ソニーの技術者である土井利忠氏の話が載っていました。その記事自体は、天才科学者である土井氏がなぜいま超能力や瞑想、オカルトに熱心なのかというところなのですが、それとは別のポイントで、興味が引かれました。

土井氏は何を隠そう、CDやAIBOの生みの親。CD、AIBOと言ったらソニーを代表するヒット商品なわけですが、土井氏がそれを発案した当初はソニー社内周囲からの猛反対にあったんだそう。

(CD開発スタートは75年、当時アナログ全盛時で)、デジタル方式に変えるのは自社製品をも否定する革命、総スカンだった。音楽産業界からも「ホラ吹き」扱いされた。そんな内外の逆風の中、天外は「やがてデジタル時代になる」という信念のもと、10人余りのプロジェクトチームを率いた。

と記事にあります。自社製品を否定から作れないという、典型的な大企業病に晒されてもなおその意向を貫いた結果の大ヒット。AIBOに関しては「役に立たないロボットなんてそんなものが売れるわけない」というのが当初の周囲の反応だったそうです。

このくだりを読んでいて、ふと頭をよぎったのが松下幸之助の持論です。Googleで見つけたページから引用します。

常識を破れ 重役の七割が賛成するプランは時すでに遅く、七割が反対するプランでやっと先手がとれる 松下幸之助

この言葉にあやかってか、松下では製品の企画段階で賛成と反対が入り乱れるときこそヒットの予感を感じ実行に移すという社内文化があると聞いています。

実はこの松下の話、id:jkondo がよく口にする台詞だったり。先日もとある新システムについて社内でああでもないこうでもないと議論していたのですが、賛成派、反対派で議論は硬直状態になりましたが結局この賛成と反対の法則に則り実行に移してみることになりました。

id:reikon も以前に書いていますが、

彼の日記によれば、大変な日々だった当時、「それでもはてなはきっとうまくいく」と信じていたそうですが(実際にそうですが)、私自身は、とても信じることなどできず、ただ必死で彼にぶらさがっていただけでした。

とあるとおり、思えばいまでこそたくさん利用していただいている人力検索も当時は賛成と反対の法則にはまっていたんだなというのが分かります。はてなダイアリーも、書くとキーワードにリンクされるなんていう奇妙な機能もやっぱり、当初は賛否両論だったそうで。

こうして考えてみると、イノベーションというのは未知の領域に踏み込むからこそイノベーションであり、人というのは生まれながらにして変化を拒む生き物ですから、その革新性というのはすべての人が受け入れられるはずはありません。ゆえに、それが形になる以前の反対票の数がその成功度合いの指標になり得るというのはなんだか納得のいく話のような気がしてきます。

ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち の中では、こんな一説があります。

私も最近iPodを手に入れた。それは、ただ良いということだけじゃない。びっくりするほど良いんだ。何故びっくりしたかというと、それは自分でも気が付いていなかった期待を満たしてくれたからだ。

よくよく考えてみると周囲の人たちがまだ気づいていない事柄が大多数の賛成を集めるなんてことは、あり得ない話ですよね。

ただ、その反対の中で自らの道を突き進むという行動が取れる環境というのはそんなに多くはないんでしょう。僕のお気に入りの書籍である イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press) の中でも、大企業においてはその価値基準がイノベーションを殺してしまう、という話が出てきます。つまり、AIBOが猛反対を受けたように、目標とする売上規模や事前のマーケティング調査による需要予測が、成功の予想が不能イノベーション実行を阻止する原動力となってしまう、という話です。

そういう意味では、はてなのような小さな会社は、周囲が「そんなのうまくいくわけない」と思っていることでもとにかくやってみるという融通が利く環境です。僕らはそういった企業文化を大事にしながら、他にないものを生み出していけたらと思う今日この頃です。